空飛ぶ人のひとりごと

2016年5月19日 (木)

◆ファスト&スロー

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久しぶりに、染中さんから不定期連載の記事が届きました。
まさに、いまの私たちに必要な事かも知れません。ぜひご一読を
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いつの頃からか忘れましたが、僕は「危険」を2種類に分類しています。
ひとつは、即座に対応が必要なもの。状況にもよりますが、少なくとも2~3秒以内に何か対応しないと危ないような状態。たとえば、車を運転していて路地から子供が飛び出してきた、などが典型です。
もうひとつは、5分、10分(場合によっては1時間)かけて、次第に追いつめられてゆくような状態。たとえば、だんだんに天候が悪化してゆく、山を歩いていて、なんだか道に迷ってしまったような気配が濃厚になってゆく、などが挙げられます。

心理学者のダニエル・カーネマンは、人間の脳には「早い思考」と「遅い思考」の2つの思考モードがあるものの、多くの場合は無意識に「早い思考」(つまり直感)に頼ってしまう(そのほうが楽なため)と述べています。人間の直感は、複雑な問題を単純で分りやすく勝手に置き換えてしまったり、厳密な論理や統計からは外れた判断を、瞬間的に行ってしまうことがある(「ファスト&スロー」早川書房、2012年)。

ロストポジションや巡航中のトラブルは、直感的に行動してはいけないことが、以前から知られています。しかし、たとえば離陸直後のエンジン不調、低高度での索切れ、ストール&スピンなど、一見すると早い思考で対応しなければならないアクシデントも、直感のみに頼っていいのかどうか、かなり疑問を感じます。

もちろん、(経験や訓練にもとづく)直感がすべて悪いわけではなく、人生には物事を瞬時に判断しなければいけない場面がたくさんあるし、いちいちじっくり考えていたら、車にはねられて死んでしまうかも知れません。
しかし「直感」は、磨くことができます。簡単な例では、離陸後の安全高度を決めておいて、それ以下ならば直進する(旋回しない)などがありますよね。

直感(対策)を磨くには、そのトラブルに直面してからでは遅すぎます。飛ぶ前に、時間があるうちに、さまざまなトラブルについて熟考し、シミュレーションし、対策を人と共有する(人の意見を聴く)必要があります。でも、トラブルが起きる前にそれを想定するには、どうすれば良いのでしょう?

だから事故が重要なのです。事故は、起きないほうが良いに決まっていますが、少なくとも「起きてしまったこと」です。したがって、それを考え、自分にあてはめ、想定し、対策するには良い機会です(あえてイヤな言いかたをします)。他人の事故を「残念だった」「自分には起きない」だけで済ます人に、ロクなパイロットはいません。

トラブルをシミュレーションするクセをつけましょう。電車でやることがないとき、お風呂に入っているとき、なんとなく考えているだけでも対策は磨かれます。僕は、想像の中では1,000回くらいは墜落しているかも...
ただし、経験上、ベッドに入ったとき(寝られなくなる)と、車を運転しているとき(危ないから)は、やめておいたほうがいいです。

(文 染中俊雅)

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